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No.247 - 幸福な都道府県の第1位は福井県 [社会]

No.240「破壊兵器としての数学」で、アメリカで一般化している "大学ランキング" の話を書きました。それからの連想で、今回は日本の都道府県のランキングの話を書きます。

No.240で紹介した "大学ランキング" は、キャシー・オニール 著「破壊兵器としての数学 - ビッグデータはいかに不平等を助長し民主主義をおびやかすか」の紹介でした(日本語版の題名「あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠」)。この本の中でキャシー・オニールは、本来多様であるべき大学教育が一つの数字によるランキングで順位付けられることの不合理や弊害を厳しく指摘していました。

ただこれはアメリカの話であり、"不合理・弊害" といっても日本人としては少々実感に乏しいものです。そこで今回は日本のランキングをとりあげ、"一つの数字によるランキング" を書いてみたいと思います。こういったたぐいのランキングがどうやって算出されているのか、それを知っておくのは有用と思うからです。

とりあげるのは「都道府県 幸福度ランキング 2018年版」(寺島実郎 監修。日本総合研究所 編。東洋経済新聞社。2018.6.7発行。以下「本書」と表記)です。都道府県幸福度ランキングは、日本総合研究所が編纂するようになってから、2012年、2014年、2016年と発行されていて、今回が4回目となります。なお以下で日本総合研究所を日本総研と略することがあります。


都道府県 幸福度ランキング


まず「都道府県幸福度」という聞き慣れない言葉の定義は何かです。本書の「まえがき」の最初の文章は、

  いかなる国、地域に暮らすことが「幸福」と言えるのか

という問題提起で始まります。その答が「地域の幸福度」なのですが、それは「地域に生きる人々の幸福を考えるための基盤となる要素」と説明されています。具体的には後で説明しますが、その「基盤となる要素」を70の客観指標で、都道府県単位で表現したのが「都道府県幸福度」です。

2018年 都道府県幸福度.jpg
言うまでもなく、幸福や不幸は人間の主観的なものです。ある地域に住んでいる人は幸福で、別の地域の人は不幸というのは、現在日本で一般的にはありません。2018年の都道府県 幸福度ランキングで総合1位になったのは福井県、47位は高知県ですが、たとえば家族の崩壊と病気が重なって "自分は不幸だ" と思っている高知県在住の方が福井県に移住したら幸福になった、ということはあり得ないわけです。もちろん、戦乱が続く地域とか飢餓が日常化している地域の住民は主観にかかわらず "不幸" だと思いますが、話はそういうことが考えられない現代日本に限定します。

"幸福度" で混同してはいけないのが、国連が調査している「国の幸福度」で、これは主観調査です。つまり「あなたは幸福ですか」という質問に10段階で答えるという調査を150以上の国・地域で大々的にやって、平均値でランキングするという方法です。これはこれで非常にシンプルで、明快です(ちなみに2016年の1位はデンマーク、日本は53位)。

「都道府県幸福度」はそれとは全く違った客観指標によるランキングです。つまり、人が幸福と感じるためには、その基盤として地域の特性や行政サービスのレベル、教育の充実度、インフラの整備度、産業の活性度、健康な生活、地域生活の充足などがあるだろう、その指標を作るということなのです。従って指標の選び方が最大の問題です。

またこれは「都道府県単位の指標」であることに注意が必要です。たとえば、東京都に移住してきて仕事を始めた3人がいるとして、1人は東京23区、1人は奥多摩、1人は小笠原に居を構えたとします。この3人のライフスタイル、価値観、人生観は全く違うことが明白で、従って何を幸福と思うかも全く違うでしょう。そして、奥多摩と23区と小笠原では行政サービスだけをとってみても、そのありようが違うと想定されます。「都道府県幸福度」は「奥多摩・23区・小笠原」を一緒くたにして「東京都」という指標でくくっています。ここに注意すべきです。


2018年版の70の指標


具体的に2018年版の70の指標を見ていくことにします。指標は「基本指標」「一般指標」「追加指標」の3つに大別されます。「一般指標」という言葉は本書では使っていませんが、説明をしやすくするためにここでは使います。以下の指標はすべて公的機関(省庁など)の調査データをもとにしています。

 基本指標:5項目 

基本指標(1)人口増加率
(2)一人当たり県民所得
(3)選挙投票率(国政選挙)
(4)食料自給率(カロリーベース)
(5)財政健全度

基本指標は2012年版からずっと使われている指標で、かつ都道府県の幸福度の一番の基礎と考えれられているものです。ここに「(3)国政選挙の投票率」を入れたのは納得できます。参政権を行使して地域づくりに責任をもつのは民主主義の基本だからです(ちなみに投票率の1位は山形県で、47位は徳島県)。また「(1)人口増加率」「(2)県民所得」「(5)財政健全度」を基本指標とするのも納得できます。

しかし意外なのは、ここに「(4)カロリーベースの食料自給率」が入っていることです。日本の国レベルの食料自給率は約40%で、これは先進国の中では極めて低く、安全保障上も問題だとされています(アメリカ、フランスなどは優に100%を越えている)。このような状況から「都道府県の食料自給率」も全般的に低くなります。100%を越えているのは、北海道(221%)、秋田県(196%)、山形県(142%)、青森県(124%)、岩手県(110%)、新潟県(104%)の6道県しかなく、逆に10%以下は、埼玉県(10%)、神奈川県(2%)、大阪府(2%)、東京都(1%)の4都府県あります。

なぜ「県レベルの食料自給率」が "都道府県幸福度" の基本指標なのか。本書の説明は次の通りです。


安心、安全な生活には食の安定が不可欠だが、日本の現場は多くの課題に直面している。生活の根本を支える食料生産のあり方を議論するための指標。

「本書」

確かに議論することは重要だと思いますが(その前に、国レベルの議論が必要なはずですが)、東京都知事に「食料自給率が1%です。どうしますか」と質問しても話にならないでしょう。食料自給率は農業・漁業が盛んで、かつ人口が少ない県ほど有利になるわけで、農業・漁業が盛んな度合いを "都道府県幸福度" の基本指標に取り入れる意味はないはずです。ひょっとしたらこれは、大都会をかかえる都道府県(東京・大阪とその周辺、愛知など)が基本指標で有利になりすぎないために入れられたのかもしれません。

 一般指標:50項目 

以下の一般指標も2012年度版からずっと使われているものであり、都道府県幸福度の中心的な指標です。合計50の指標は、5つの分野(大項目)と10の領域(中項目)に分類されています。また指標には「現行指標」と「先行指標」の区別があります。この区別は、

現行指標 :  現状における経済・社会の安定度を示す指標
先行指標 :  将来あるべき姿を見据えた未来への投資状況を示す指標

と説明されています(本書)。以下の表で「先行指標」は緑色に塗ってあります。また指標には「大きいほどよいもの」と「小さいほどよいもの」があります。たとえば最初の「(6)生活習慣病受療者数」は「小さいほどよい指標」です。指標ごとに想像はつくので、その区別は省略します。

分野 領域 指標
健康 医療
福祉
(6)生活習慣病受療者数
(7)感情傷害(うつ等)受療者数
(8)産科・産婦人科医師数
(9)ホームヘルパー数
(10)高齢者ボランティア活動数
運動
体力
(11)健康寿命
(12)平均歩数
(13)健康診査受診率
(14)体育・スポーツ施設数
(15)スポーツの活動時間
文化 余暇
娯楽
(16)教養・娯楽支出額(サービス支出)
(17)余暇時間
(18)常設映画館数
(19)書籍購入数
(20)文化活動等NPO認証数
国際 (21)外国人宿泊者数
(22)姉妹都市提携数
(23)語学教室にかける金額
(24)海外渡航者率
(25)留学生数
仕事 雇用 (26)若者完全失業率
(27)正規雇用者比率
(28)高齢者有業率
(29)インターンシップ実施率
(30)大卒者進路未定者率
企業 (31)障がい者雇用率
(32)製造業労働生産性
(33)事業所新設率
(34)特許出願件数
(35)本社機能流出・流入数
生活 個人
(家族)
(36)持ち家比率
(37)生活保護受給率
(38)待機児童率
(39)一人暮らし高齢者率
(40)インターネット人口普及率
地域 (41)汚水処理人口普及率
(42)道路整備率
(43)一般廃棄物リサイクル率
(44)エネルギー消費量
(45)地縁団体数
教育 学校 (46)学力
(47)不登校児童生徒率
(48)司書教諭発令率
(49)大学進学率
(50)教員一人当たり児童生徒数
社会 (51)社会教育費
(52)社会教育学級・講座数
(53)学童保育設置率
(54)余裕教室活用率
(55)悩みやストレスのある者の率

指標について何点かの補足をします。まず「・・・・・ 数」となっている指標は、それぞれの指標ごとに決められた人口(=母数)で割った "比率" です。たとえば【健康:医療・福祉】の「(6)生活習慣病受療者数」の母数は総人口、「(8)産科・産婦人科医師数」の母数は15~49歳の女性人口、「(9)ホームヘルパー数」の母数は65歳以上人口、といった具合です。

【健康:運動・体力】の「(11)健康寿命」はあまり聞き慣れない言葉ですが、「健康上の問題による日常生活の制限、がない期間」を言います。平均寿命から、入院・寝たきり・要介護などの期間を引いたものです。

【仕事・企業】の「(32)製造業労働生産性」とは、製造業が創出した付加価値(雑駁に言うと利潤+人件費)を製造業の従業員数で割ったものです。

【教育:学校】の「(48)司書教諭発令率」は、公立の小・中・高校のうち、司書教諭を任命している学校の割合です。

【教育:社会】の「(51)社会教育費」は、公民館、図書館、博物館、体育館、文化会館などの費用や、文化財保護の費用などの合計(一人当たり)です。

【教育:社会】の「(53)学童保育設置率」は、学童保育所の数を小学校の数で割ったものです。ほとんどの都道府県でこの数は100%を越えていますが、和歌山、徳島、高知の3県は100%以下です。

【教育:社会】の「(54)余裕教室活用率」は、公立小・中学校の余裕教室のうち、活用されているものの割合です。ほとんどの都道府県は98%以上で、最も低い大分県でも93.1%です。

 追加指標:15項目 

基本指標と一般指標は、都道府県幸福度ランキング 2012年版からずっと変わらず設定されている指標ですが、追加指標は2014年版以降で付け加えられたものです。次の15項目から成ります。

追加年 指標
2014年 (56)信用金庫貸出平均利回り
(57)平均寿命
(58)女性の労働力人口比率
(59)自殺死亡者数
(60)子どもの運動能力
2016年 (61)合計特殊出生率
(62)自主防災組織活動カバー率
(63)刑法犯認知件数
(64)農業の付加価値創出額
(65)勤労者世帯可処分所得
2018年 (66)訪日外国人消費単価
(67)市民農園面積
(68)子どものチャレンジ率
(69)コンビニエンスストア数
(70)勤労者ボランティア活動比率

補足しますと、まず【2014年追加指標】の「(56)信用金庫貸出平均利回り」は、信用金庫の貸出金の残高に対する貸出利息の割合で、低いほど上位にランクされます。つまり、低金利で信用金庫から借りられる都道府県ほど上位になります。ちなみに1位は奈良県の1.21%、47位は高知県の3.71%で、3倍の開きがあります。

【2016年追加指標】の「(64)農業の付加価値創出額」は、紛らわしいのですが、農業の県内総生産を県の総人口で割ったものです。【仕事・企業】の「(32)製造業労働生産性」は、製造業が創出した付加価値(利潤+人件費)を製造業の従業員数で割ったものでしたが、「(64)農業の付加価値創出額」は一人あたりの農業生産高です。従って農業が盛んな都道府県ほどこの指標は高くなります。ちなみに1位は宮崎県の116,519円で、47位は東京都の2,929円で、40倍の開きがあります。

【2018年追加指標】の「(68)子どものチャレンジ率」とは聞き慣れない言葉ですが、文部科学省の「全国学力・学習状況調査」の公立の小・中学校の調査で「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦していますか」という質問に「当てはまる」ないしは「どちらかと言うと当てはまる」と答えた児童・生徒の割合です。ちなみに1位は秋田県の83.4%、47位は徳島県の70.2%です。

本書には「この指標が高ければ、子どもたちのたくましさ、人間力が向上し、先の長い人生のさまざまなステージにおいて、主体的に目標に向かって学習・挑戦できる幸福へとつながる」と説明されています。ただし、公立の小・中学校の学力調査での質問で、長い人生における人間力が計測できるかは疑問だと思います。また、このようなアンケート調査で、83.4%から70.2%までの差にどれほどの意味があるのかも疑問です。


指標の特徴と疑問


全体的にまんべんなく指標が選ばれている感じもしますが、大きな特徴は「国際化」を強く意識していることでしょう。【一般指標】の【文化・国際】の5つの指標や、【2018年追加指標】の「(66)訪日外国人消費単価」がそうです。

疑問点もいくつかあります。まず、農業が盛んな県ほど高くなる指標があることです。【基本指標】の「(4)食料自給率(カロリーベース)」と【2016年追加指標】の「(64)農業の付加価値創出額」です。いずれも最下位は東京都ですが、当然そうなるところでしょう。これは「農業を産業としてもっと振興すべきだ」という日本総研の考え方があるのでしょうが、産業構造は都道府県によって多様で(多様であるべきで)、ちょっと解せない指標です。国レベルの議論なら大変よくわかります。

また、都道府県によってほとんど差が付かない指標、かつ日常生活にとってあまり関係ないと思われる指標がいろいろあるのも疑問です。たとえば【教育:社会】の「(54)余裕教室活用率」は、ほとんどの都道府県は98%以上で、最も低い大分県でも93.1%です。もちろん100%がいいに決まっていますが、93.1%だとまずいとも思えません。不思議な指標です。

同じ【教育:社会】の「(55)悩みやストレスのある者の数」は厚生労働省の「国民生活基礎調査」のデータですが、1位は北海道の44.0%、47位は兵庫県の51.1%です。この差の7.1%は意味のある数字なのかどうか。むしろ現代人としては「悩みやストレスを抱えながら、前向きにかつポジティブに人生を楽しむ」というのが基本だと思います。「(68)子どものチャレンジ率」という指標があるように、日本総研は「チャレンジするのは大事」と考えているようです。チャレンジすれば悩みやストレスも増えるのは当然です。

あとで述べますが、こういった有意な差がない指標でも総合ランキングに利いてくるのです。そこに注意すべきです。

「お金」に関する指標がないのも疑問です。No.240「破壊兵器としての数学」で紹介したアメリカの "大学ランキング" には「お金」に関する項目がありませんでした(授業料など)。同じようにこの都道府県幸福度の指標も都道府県民の「負担」に関する項目が全くありません。つまり、住民税、国民健康保険料、義務教育にかかる費用、子どもの医療費の自己負担額などの、公的な(準公的な)負担額です。一概に負担額が低い都道府県が良いというわけではありませんが、本書の一番の目的は指標値に基づく都道府県のランキングを明確化して「地方の幸福」とは何かを議論することなので、あるべき項目だと思います。

また「安心・安全」に関する指標がないのも不思議です。"幸福な生活" の最も根底にあるのは「安心・安全」のはずで、さまざまな自然災害や事故、火災、犯罪による被害が少なく、市民生活の安寧が守られていることが重要です。2016年追加指標になってやっと「(63)刑法犯認知件数」が出てきますが、この一つでは不足でしょう。一般指標の「分野」か「領域」のレベルに「安心・安全」があってしかるべきだと思います。


多角的な都道府県の分析がポイント


いろいろと疑問はありますが、本書の一番の目的は「各指標ごとのランキングを都道府県ごとに明確化し、地方の幸福とは何かを議論すること」です。本書ではそれが明らかにされていて、都道府県ごとに全国のトップクラスの指標は何か、また課題となる指標は何かが解説されています。また2012年からの変化が大きいもの(上昇や下降など)も指摘されています。こういった分析は、たとえば地方自治に関わる人たち、ないしは地域の団体で活動している人たちへの情報提供として優れていると思います。

また本書ではライフステージごとの幸福度が分析されています。つまり「青少年」「子育て世代」「中堅社会人」「現役のシルバー世代(60歳以上)」などにわけ、それぞれに関わると考えられる幸福度の指標を選定し、各都道府県の傾向や取り組みが分析されています。さらに「健康長寿社会」の到来にともなって、そこでの幸福とは何か、何が必要か、都道府県の傾向はどうかという分析もあります。本書の価値はこういった分析にあります。

ただし、これらの分析で多く使われている指標ごとのランキングは絶対評価ではなく相対評価です。指標値が上がったとしても都道府県の全体の指標値が上がるとランキングは上がりません。指標は「高ければ高いほどよい」ものばかりではないはずです。一定レベルをクリアすれば十分なものもあるはずです。逆に特定の指標が高すぎることが副作用を招くことも考えられます。絶対評価をするのは非常に難しいと思いますが、ランキングはあくまで相対評価だということを念頭において読むべきだと思いました。


総合ランキングの計算方法


ここまでは前置きです。ここからが "問題の" 総合ランキングの算出方法で、この記事の主眼です。本書は 70の指標の都道府県ごとのポイントを計算し、それを総合して「都道府県幸福度ランキング」(これが本の題名)を決めています。このポイントの計算方法は次のように書かれています。


まず、70指標それぞれの値を、比較可能な数値(標準化変量)に置き換える。これは、ある指標のある県の数値が平均値からどれだけ離れているか ─── 標準偏差(その指標のばらつき度合い)の何倍であるか ─── を求めることであり、標準化変量は平均値を 0 とした正負に広がる値となる。これにより、単位が異なる各指標を一定のルール下に収めること(正規化)ができ、こうして求めた各指標の標準化変量を都道府県ごとに均等加重した合計値を得点とする。

「本書」

平均値からのずれが「偏差」(正または負)です。「偏差」の2乗を平均したものが「分散」で、分散の平方根が「標準偏差」(正の値)です。上の「標準化変量」とは「偏差」を「標準偏差」で割ったものということになります。これは意味としては、大学入試で一般的な「偏差値」と同じです。「標準化変量」(正または負)を10倍して50を足すと「偏差値」になります。つまり偏差値は平均が50、標準偏差が10としてデータを正規化したものですが、標準化変量は平均が0、標準偏差が1の正規化です。この標準化変量が総合ポイントの計算に使われているわけです。

この計算がどういうものか、2つの例で調べてみます。70の指標には都道府県で指標値の変化があまりない指標と、大きく変化している指標があります。まず変化があまりない指標として、2014年追加指標である「(57)平均寿命」の「標準化変量」と「偏差値」を計算してみたのが次です。この2018年版に記載されている平均寿命は、厚生労働省の2015年時点のデータです。

平均寿命のランキング

出典 : 2018年版 都道府県幸福度ランキング
原データ : 都道府県別生命表(厚生労働省)。調査年は2015年
算出法 : 男性平均寿命と女性平均寿命の平均

順位 都府県 平均 寿命 偏差 標準化 変量 偏差値
1長野84.70.86171.869069
2滋賀84.70.86171.869069
3福井84.40.56171.218362
4京都84.40.56171.218362
5熊本84.40.56171.218362
6岡山84.40.56171.218362
7奈良84.30.46171.001460
8神奈川84.30.46171.001460
9島根84.20.36170.784558
10広島84.20.36170.784558
11大分84.20.36170.784558
12東京84.20.36170.784558
13石川84.20.36170.784558
14宮城84.10.26170.567656
15山梨84.00.16170.350754
16香川84.00.16170.350754
17静岡84.00.16170.350754
18富山84.00.16170.350754
19新潟84.00.16170.350754
20兵庫84.00.16170.350754
21愛知84.00.16170.350754
22千葉83.90.06170.133851
23三重83.90.06170.133851
24岐阜83.90.06170.133851
25福岡83.90.06170.133851
26佐賀83.90.06170.133851
27沖縄83.90.06170.133851
28山形83.7-0.1383-0.300047
28埼玉83.7-0.1383-0.300047
30宮崎83.7-0.1383-0.300047
31群馬83.7-0.1383-0.300047
32鳥取83.7-0.1383-0.300047
33山口83.7-0.1383-0.300047
34長崎83.7-0.1383-0.300047
35高知83.6-0.2383-0.516845
36北海道83.5-0.3383-0.733743
37徳島83.5-0.3383-0.733743
37愛媛83.5-0.3383-0.733743
39大阪83.5-0.3383-0.733743
40鹿児島83.4-0.4383-0.950640
41茨城83.3-0.5383-1.167538
42福島83.3-0.5383-1.167538
43和歌山83.2-0.6383-1.384436
44栃木83.2-0.6383-1.384436
45岩手83.2-0.6383-1.384436
46秋田82.9-0.9383-2.035130
47青森82.3-1.5383-3.336417

◆平均83.8383(歳)
◆標準偏差0.4611(歳)

平均寿命が同じ数字でも順位が違うのは、小数点第2位以下が省略されているからです。この平均寿命の指標は、1位の長野県と47位の青森県では寿命では2.4歳の差ですが、標準化変量では 5.2054ポイントの差になることに注目すべきです。

ちなみに「偏差値」をみると、長野県・滋賀県は69、秋田県は30、青森県は17となります。大学入試の感覚からいうと「長野県・滋賀県は素晴らしい、秋田県は全然ダメ、青森県は論外」ですが、その平均寿命の差は2歳程度なのです。この平均寿命の偏差値で分かるように僅かな差でも状況によってはそれが大きく拡大されるのがこの計算です。

  とは言うものの、青森県の「平均寿命の偏差値は17」は大いに問題でしょう。平均寿命のように、多くの都道府県が83歳台後半から84歳台前半に集中している状況の中で、青森県のように82歳台前半という "はずれ値" があるとそうなります。青森県民が塩気の利いた食品(漬け物など)を好むからだという説を聞いたことがありますが、青森県当局としてはその原因を追求し対策をとるべきでしょう。



もうひとつ、今度は都道府県の指標値に大きな差があるものを取り上げます。基本指標の一つである「(4)食料自給率(カロリーベース)」(単位は%)です。この標準化変量(と偏差値)の計算をすると以下のようになります。

食料自給率(カロリーベース)のランキング

出典 : 2018年版 都道府県幸福度ランキング
原データ : 都道府県別食糧自給率について(農林水産省)。調査年は2015年

順位 都府県 自給率 偏差 標準化 変量 偏差値
1北海道221166.23403.641586
2秋田196141.23403.093881
3山形14287.23401.910969
4青森12469.23401.516665
5岩手11055.23401.209962
6新潟10449.23401.078561
7佐賀9237.23400.815658
8富山8328.23400.618556
9鹿児島8227.23400.596656
10福島7722.23400.487155
11宮城7318.23400.399454
12茨城7015.23400.333753
12栃木7015.23400.333753
14福井6813.23400.289953
15宮崎6611.23400.246152
16島根6510.23400.224252
17鳥取638.23400.180452
18熊本583.23400.070851
19長野54-0.7660-0.016850
20石川51-3.7660-0.082549
20滋賀51-3.7660-0.082549
22高知47-7.7660-0.170148
23長崎46-8.7660-0.192048
23大分46-8.7660-0.192048
25三重42-12.7660-0.279647
25徳島42-12.7660-0.279647
27愛媛39-15.7660-0.345447
28岡山36-18.7660-0.411146
29香川34-20.7660-0.454945
30群馬33-21.7660-0.476845
31山口32-22.7660-0.498745
32和歌山29-25.7660-0.564444
33千葉27-27.7660-0.608244
34沖縄26-28.7660-0.630144
35岐阜25-29.7660-0.652043
36広島23-31.7660-0.695943
37福岡20-34.7660-0.761642
38山梨19-35.7660-0.783542
39静岡17-37.7660-0.827342
40兵庫16-38.7660-0.849242
41奈良15-39.7660-0.871141
42京都13-41.7660-0.914941
43愛知12-42.7660-0.936841
44埼玉10-44.7660-0.980640
45神奈川2-52.7660-1.155938
46大阪2-52.7660-1.155938
47東京1-53.7660-1.177838

◆平均54.7660(%)
◆標準偏差45.6500(%)

1位の北海道(221%)と最下位の東京都(1%)の間には大きな開きがありますが、標準化変量の差は 5.8194 ポイントしかありません。平均寿命1位の長野県と47位の青森県の差である 5.2054 ポイントと大して変わらないのです。食料自給率がゼロに近い東京都の偏差値(= 38)は、大学入試の感覚から言うと何とか大学に入れるレベルです。これは青森県の平均寿命の偏差値(= 17)が "論外" だったのとは大きな違いです。そういう風に計算されてしまうということなのです。

そもそも「標準偏差」という概念は、多くの値が平均値の周りに集中し、平均から離れると少なくなるという分布のありよう(=平均への集中度合い)を一つの値で示そうとするものです。食料自給率のように「値が全くバラケてしまっているもの」に対して標準偏差という概念は有効ではなく、つまり標準化変量も意味のある値ではない。そもそも食料自給率の平均である 54.7660% が一体何を意味しているのかが不明です。

とはいえ、総合ポイントを計算するためには無理矢理にでも指標値の正規化をする必要があるので、こういった計算になるということです。



こうした標準化変量を70の指標についてそれぞれ計算し、それらを単純加算すると(小さいほどよい指標は符号を逆転させて加算すると)都道府県の総ポイントが決まります。そのポイントの大小でランキングが決まるというわけです。


総合ランキングの結果


総合ランキングの結果と順位が本書に載っていますが、ここではポイントのグラフを引用します。青い折れ線グラフが総合ポイントで、棒グラフは基本指標、一般指標の各分野、追加指標ごとのポイントを積み上げたものです。

2018年 都道府県幸福度総合ランキング.jpg
総合ポイント一覧
折れ線上の青点が各都道府県の総合ポイントを示している。1位:福井、2位:東京、3位:長野、4位:石川、5位:富山の順である。逆は、47位:高知、46位:青森、45位:沖縄、44位:長崎、43位:大阪の順。東京と大阪の2大都市が2位と43位に分かれてしまっているが、この総合ポイントの出し方では仕方ないのだろう。都道府県ごとの棒グラフは、基本指標、一般指標の分野ごと、追加指標のポイントを積み重ねたものである。「都道府県 幸福度ランキング 2018年版」(日本総合研究所 編。東洋経済新聞社。2018.6.7)より引用。

総合1位は福井県で、これで2014年から3回連続の1位です。特に仕事分野と教育分野のポイントが高い。ただし、文化分野は33位です。このグラフを見ると福井県は「平均より下=ゼロより下」の指標がほとんどないことがわかります。かつ「平均より上=ゼロより上」の指標が高いレベルにあることが見て取れます。

2位は東京都で、4回連続の2位です。文化分野のポイントが他の都道府県に比べて圧倒的に高く、基本指標や仕事分野も高い。ただし生活分野は42位です。東京都も福井県と同じで、平均より下の指標があまりありません。このグラフを見ると、次のような傾向が感じ取れます。

総合ランキングが上位(総ポイントがプラス)の都道府県は、平均より下の指標が少ない(2つ以下が18都道府県)。
総合ランキングが下位(総ポイントがマイナス)の都道府県は、平均より上の指標が少ない(2つ以下が19都道府県)。
平均より上の指標と下の指標が同数に近い都道府県は中位にランキングされるが、そういった都道府県は比較的少ない(10都道府県)。

私見ですが、この「上位県は多くの指標が上位、下位県は多く指標が下位」という "2極化" で感じるのは、何らかの "隠れた変数" があって、それが多くの指標と因果関係をもっているのではないかということです。その "隠れた変数" は 70 の指標にないかもしれないし、あるかもしれない。ないしは複合的な指標かもしれません。また数値では表し難いものかもしれない。このあたりの分析も欲しいと思いました。


重み付けがないランキング


このランキングで重要な点は、70の指標を正規化して単純加算していて、指標に重みを付けていないことです。これは最初に書いたアメリカの "大学ランキング"(No.240「破壊兵器としての数学」)とは違います。大学ランキングも客観データにもとづくランキングですが、各データに重みをつけて算出しています。もちろんその重みはランキング作成者の考え方に依存しているのですが、ともかく重要度の判断をしている。"大学ランキング"でなぜ重みづけが可能かというと、これは大学の「教育の卓越性」を測定しようとするものだからです。目的が明確なのです。

一方、都道府県幸福度ランキングはそうはいきません。幸福度というのは老若男女、あらゆる市民に関わるランキングです。たとえば、結婚数年の共働きの夫婦がいたとして、これから子育てを考えている場合、「(8)産科・産婦人科医師数」「(38)待機児童率」「(53)学童保育設置率」などが重要だと考えるでしょう。しかしリタイアして趣味や地域活動に励もうとする夫婦は、重要度の考えが全く違うはずです。都道府県幸福度ランキングでは「重み」の設定のしようがないのです。だから70指標(正規化したもの)の単純加算でやるしかない。

つまり70の指標はすべて対等です。「(5)財政健全度」も「(68)子どものチャレンジ率」も「(54)余裕教室活用率」も同じウェイトである(これは例です)。従って総合ランキングでどの都道府県が上位にいくかは、ひとえにどういう指標を選ぶかにかかっているわけです。

このような事情から、少々奇妙なことも起こります。たとえば都道府県の「(5)財政健全度」は、普通に考えて「地域の幸福」の重要な基盤だと思うのですが、たとえば総合ランキング4位の石川県の財政健全度は39位です。総合ランキング5位の富山県の財政健全度は43位です。別にこの2県を悪く言うつもりは全くないのですが、財政健全度が全国で最低レベルでも総合5位というのは、何となく奇妙だなと思うわけです。もちろん相対評価なのですが ・・・・・・。

これは都道府県を "幸福度の基盤で" ランキングしようとする限りやむを得ないのでしょう。逆に言うと「総合ランキング」の順位は、それほど意味のあるものではないのです。本当は、上位、中位、下位ぐらいの3グループのどこに位置するかというぐらいが妥当でしょう。


幸福な都道府県の第1位は福井県


ここで総合ランキングの内容を理解するために、総合ランキング1位の福井県を詳しくみたいと思います。福井県の全70指標のランキングをリストしたのが次の表です。本書には記載されていませんが、ここではランキング1位~47位をほぼ3等分し、視認性を高めるために以下のように色分けしました。

  上位1位~16位赤色
  中位17位~31位(色なし)
  下位32位~47位青色

福井県の70指標のランキング

分野など指標順位
基本指標

19位
(1)人口増加率26位
(2)一人当たり県民所得14位
(3)選挙投票率(国政選挙)23位
(4)食料自給率14位
(5)財政健全度22位
健康

8位
医療
福祉

5位
(6)生活習慣病受療者数13位
(7)感情傷害受療者数14位
(8)産科・産婦人科医師数11位
(9)ホームヘルパー数45位
(10)高齢者ボランティア活動9位
運動・
体力

15位
(11)健康寿命4位
(12)平均歩数31位
(13)健康診査受診率23位
(14)体育・スポーツ施設数13位
(15)スポーツの活動時間7位
文化

33位
余暇・
娯楽

33位
(16)教養・娯楽支出額36位
(17)余暇時間25位
(18)常設映画館数4位
(19)書籍購入数34位
(20)文化活動等NPO認証数45位
国際

32位
(21)外国人宿泊者数43位
(22)姉妹都市提携数38位
(23)語学教室にかける金額10位
(24)海外渡航者率23位
(25)留学生数35位
仕事

1位
雇用

1位
(26)若者完全失業率4位
(27)正規雇用者比率3位
(28)高齢者有業率5位
(29)インターンシップ実施率2位
(30)大卒者進路未定者率1位
企業

25位
(31)障がい者雇用率7位
(32)製造業労働生産性33位
(33)事業所新設率42位
(34)特許出願件数11位
(35)本社機能流出・流入数39位
生活

5位
個人
(家族)

2位
(36)持ち家比率4位
(37)生活保護受給率3位
(38)待機児童率1位
(39)一人暮らし高齢者率3位
(40)インターネット普及率26位
地域

29位
(41)汚水処理人口普及率9位
(42)道路整備率5位
(43)一般廃棄物リサイクル率35位
(44)エネルギー消費量45位
(45)地縁団体数9位
教育

1位
学校

1位
(46)学力1位
(47)不登校児童生徒率5位
(48)司書教諭発令率12位
(49)大学進学率13位
(50)教員一人当たり生徒数21位
社会

1位
(51)社会教育費1位
(52)社会教育学級・講座数1位
(53)学童保育設置率23位
(54)余裕教室活用率1位
(55)悩みやストレスのある者の率7位
追加
指標
2014 
(56)信用金庫貸出平均利回り7位
(57)平均寿命3位
(58)女性の労働力人口比率1位
(59)自殺死亡者数25位
(60)子どもの運動能力1位
2016 
(61)合計特殊出生率7位
(62)自主防災活動カバー率14位
(63)刑法犯認知件数9位
(64)農業の付加価値創出額33位
(65)勤労者世帯可処分所得9位
2018 
(66)訪日外国人消費単価12位
(67)市民農園面積14位
(68)子どものチャレンジ率4位
(69)コンビニエンスストア数15位
(70)勤労者ボランティア活動5位

福井県の1位の理由は【仕事・雇用】領域と【教育】分野でトップであることです。また【健康】分野や【生活・個人】領域でも上位グループにある。さらに、2014年以降の追加指標のほとんどで上位グループにあることも大きいでしょう。

全体に赤色の指標(都道府県の上位1/3に入る指標)が多いのは一目瞭然だし、3領域で1位だというのは、総合ランキングでトップになるのも納得できます。

しかしこの総合ランキングはあくまで日本総研が出した「70指標の単純合計」であることに変わりありません。先ほども書いたように、この70指標指標以外にも、幸福度に関係する項目はあります。たとえば、日本総研の指標には「安心・安全」に関する項目がないと上に書きましたが(唯一の例外が「(63)刑法犯認知件数」)、福井県に関して言うと "原子力発電所の集積地" であることが気になります。

現在、日本で稼働中の原子力発電所は12県にあります。「稼働中」とは廃炉が決定したもの、および廃炉の方針が示された "福島第2" を除いたカウントです(もちろん稼働中のなかには、定期点検・地震の影響・政府の要請等で運転停止中の原子力発電所が多々ある)。その12県を北の方から発電所名ともにリストすると、

 ◆北海道(とまり
 ◆青森県(東通ひがしどおり
 ◆宮城県(女川おながわ
 ◆新潟県(柏崎刈羽かしわざきかりは
 ◆石川県(志賀)
 ◆福井県(敦賀、美浜、大飯おおい、高浜)
 ◆茨城県(東海第2)
 ◆静岡県(浜岡)
 ◆島根県(島根)
 ◆愛媛県(伊方いかた
 ◆佐賀県(玄海)
 ◆鹿児島県(川内せんだい

ですが、11道県の原子力発電所は1カ所だけなのに、福井県だけは4カ所もあります。もちろん東日本大震災以降、原発の安全審査は厳しくなったとされていますが、安全といっても「想定内の事態に対して安全」ということであり、東日本大震災のように「想定外」(東電経営陣の主張)の事態が起こると大惨事を招くわけです。

原子力発電所の集積県だということは、各種の補助金や県民の雇用面のメリットが大だと思いますが(= "幸福度" のプラス)、福井県が "4原発集積県" であるということはそれだけ安心面でのデメリットを抱えていることも確かでしょう(= "幸福度" のマイナス。これは隣接する京都府や滋賀県にとっても重大関心事)。もちろん、原子力発電所設置数(ないしは原子炉設置数)などという "指標" は「都道府県幸福度ランキング」には絶対に選ばれないと思いますが ・・・・・・。



「総合ランキング」については、それがどのように作成されたものかを知ることが重要だと思います。似たようなランキングとして最近も、森ビルのシンクタンクである森記念財団都市戦略研究所が「日本の都市力ランキング」を発表しました。これは東京を除く主要72都市のランキングですが、1位は京都市、2位は福岡市、3位は大阪市だそうです(2018年10月3日の日本経済新聞による)。それぞれの都市に "都市力" があることは分かりますが、この全く性格が違う3都市の並びには違和感があります。これも、どういう指標でどうやってランクづけしているのか、それを知らないと何とも言えませんが、要するに「総合ランキング」に無理があるということでしょう。

そういった「総合ランキング」より重要なのは、個々の指標の値と全国にける位置づけでしょう。本書に即して言うと、地域の幸福の基盤となる指標は何か、それは本書があげているもののほかに、各人が考えることも重要でしょう。本書にはそいう議論を進めるトリガーとしての意味があると思いました。




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